野の医者は笑う:心の治療とは何か?
東畑開人
以前、精神科の受付さんが紹介していた本。かなり面白いです。力作!
「野の医者」とは正規の医療教育を受けた臨床家以外のことを指していると思われる。
医者でも、ちょっと怪しい治療法をしている場合があり、それらも「野の医者」に含むとのこと。
「野の医者」という言葉は野巫(やぶ)医者から着想を得た様子。
本書で扱っている「野の医者」は主にスピリチュアルなものばかりで、手技療法家はあまり出てこない(スピリチュアル足裏もみ師や神懸かりリンパマッサージ師は出てくる)。
著者は臨床心理学の研究者だから、「心の治療」という切り口で、肉体的なものをあまりターゲットにしていなかったのかもしれない。精神やエネルギーのみ対象にしている場合、肉体の変化を検査するセラピストは少ないから「プラシーボかな」という程度の体感のものも多いと思う。
本当は、スピリチュアルと言われる領域でやっているセラピストも、肉体的な検査ができた方が受け手も納得するし、本当に変わったかどうかがわかる。
冒頭に出てくるグシケン先生がしているリリース方法は何をしているかわかったので、やってみたらちゃんとリリースできた(エネルギー問題を解除でき、動体検査も変化した)。
著者は、フィールドワークしながら、自分が何のために調査しているかイマイチわかっていなかったが、クラインマンの『臨床人類学』や「相対化」といった材料を手がかりに、臨床心理学の無根拠性、神話性といったものを問い出し、「野の医者」のフィールドワークを深めていく。
そして、調査地の沖縄は何故ここまで「野の医者」が多いのか、何が「野の医者」を増やす装置になっているのか知りたいと思いながら、自分の就職先が決まらないのもあり怪しいヒーリングや占いにのめり込んでいく、、、
面白いポイントが幾つかあり、
①「野の医者」は自分が深く傷ついた経験がある。
②文化が治療を規定する。
③沖縄のシャーマニズムはブリコラージュ
①整体師鍼灸師なども、自分自身が死ぬ思いをして医の道を志したという人が多く、それは自分自身が病気や症状に悩む過程で、身体の仕組みや健康とは何かについて膨大な知識に触れたり、実践することから、似たような境遇の人の力になりたいと思う類型で、自分の症状や病気について細かく知っている人に見てもらえるとなったら受け手は安心する。
②アメリカではADHDと診断された子供はすぐ精神薬を処方されたり、改善プログラムに参加させられたりする。多動であることが、アメリカの文化では秩序を乱すことと考えられているため。
これが例えばブッシュマンなら授業中黙ってられない子供に戦士の勇敢さを感じ、獣を飼っている我が子の猛々しい姿をイメージして喜ぶかもしれない。
当たり前だけど、なるほどと思った。先進国とジャングルで施術する場合は、何が調和していて何が不調和か若干変動することになる。
③ブリコラージュはレヴィ=ストロースの用語で、あり合わせのもので間に合わせるやり方。沖縄はカミンチュやユタが活躍する文化かと思ったら、本州や海外で流行っているセラピーなどをごった混ぜにして沖縄の伝統と今風がミックスして機能しているらしい。
他に面白いポイントは沢山あるので、整体、鍼灸その他臨床家は読むと面白いと思います。
思うに、東京23区では5キロ平方以内にかなりの数の「野の医者」がいて、中にはかなり「独自な」野の医者が潜んでいると思うので、東京で同じようなフィールドワークをすると面白いことになるんじゃないかと思っています。
自由が丘、奥沢だけで、独自の怪しい整体をしている所は数ヵ所ありますね。
うちは怪しいだけではなくて、ちゃんと肉体から変化しますよ!